เข้าสู่ระบบ「クロード、結婚相手を決めたぞ」
セオドアは、家令に着替えを持って来てもらい、応接室に戻るとクロードに声をかけた。
「おぉ、先ほどの令嬢のどちらかに決めたのか?そりゃいい。どちらも知的で良いお嬢さんたちだ」
「いや、お前の姪のローティシアと結婚をしたい。彼女の後見人はお前でいいのだよな? では、今、正式に申し入れをしよう」
目の前のクロードは、持っていた火のついていない葉巻を取り落とした。
「テオ‥‥正気か? 彼女は社交界にも出ていない。淑女のマナーを学んでもいないぞ。とてもじゃないが、侯爵の妻としての役割など果たせないと思うが。歳もおまえより10以上も下で‥‥」
「別に構わない。どのみち辺境領に住むのだ。社交界に未練のない女性の方がいい。淑女のマナーなどおいおい学べばそれで済む。子どもがよくなついているようだったし、おとなしく従順そうだ」
「いや、しかし‥‥はぁ、ちょっと考えを整理させてくれ」
「何か、問題があるのか?彼女が結婚に不向きであるような理由があるなら、今のうちに話しておいてくれ」
「理由? そりゃ、いろいろあるさ。だいたい、テオは彼女と話をしたこともないだろう?なんで突然そんな話になるんだ」
「直感だよ。戦でもそうだが、心の声がそうしろと言う方へ進むと、大きな決断はたいていうまくいく」
クロードは眉間に皺を寄せた。
「結婚は戦の勝ち負けとは違うだろう!彼女は、ここでの子守を終えたら修道女になりたいと言っていたんだ。その為の紹介状を書く約束もしている」
「修道女より侯爵夫人の方がいい生活ができそうだと思うが」
そう口を挟んだセオドアに、落とした葉巻を拾って火をつけ直したクロードが、一息吐いて答える。
「生き方は人それぞれだよ、テオ。まぁ‥‥でも、一度彼女に話をしてみよう」
子どもたちが部屋で昼寝をしている間に、自室で繕い物をしようと思っていたのに、子ども部屋を出た途端に、ひどく目の座った表情のアビゲイルに捕まってしまった。
「ローティシア、話があるのよ。ちょっとこちらへいらっしゃい」
低い声で脅すように言うアビゲイルの後ろをついて執務室へ向かう。部屋へ入るなりアビゲイルの不愉快そうな顔がこちらを向いた。
「あなた、どうやって閣下を
アビゲイルの言っていることの意味がわからない。閣下とは、先ほど噴水のところで出会ったあの閣下のことだろうか。
「いえ、あの、先ほどのことは、お優しい閣下がお気遣いをくださっただけで‥‥」
「白々しいわね。閣下があなたを侯爵家の嫁にとお望みなのよ。どうやったか知らないけれど、母親譲りなのね。貴族の懐に入りこむのが上手いこと。おかげで私の面子は丸つぶれなのよ」
苛立たしげに言葉を吐き出すアビゲイルの話が、今一つ入ってこない。侯爵家の嫁、とは。
黙って立ち尽くしているローティシアに、アビゲイルがイライラと言葉を投げつける。
「閣下の花嫁探しにあちこちお声かけをしたあげく、結局、自分の家から相手を出すなんて、せっかく築き上げた私の評判に傷がついたわ。しかも、孤児院育ちの学の無い身内だなんて。まぁ、でも、それを差し引いても侯爵家と縁続きになれるのはいいことだから」
「あ、アビゲイル‥‥話が見えないの。どういうこと? 私が侯爵家に嫁ぐというように聞こえたのだけれど、聞き間違いよね?」
恥ずかしい聞き間違いをしていて、なじられるのを覚悟で聞きなおす。アビゲイルは、馬鹿にしたようにため息をつく。
「なんで、一度で理解できないの?まったく、あなたは本当に頭が弱いのね。閣下が辺境領へ連れて行く花嫁をあなたに決めたのよ」
どうしてそんなことになっているのだろう。花嫁に決めたって‥‥
『―侯爵家を無くすわけにはいかないから、今のうちにどこかでよい相手を見繕っておこうと思って―』
応接室を出る前に聞こえた会話が頭に浮かんだ。見繕う‥‥まるで物を選ぶような口ぶりだった。
「ど、どうしてそんな。私は、何も聞いていないのだけど」
「だから、今、言ってるんでしょ?閣下があなたを花嫁に決めたの。辺境領で子どもを産んで育てるには、若くて従順で社交界に興味のない娘と言っていたから、高貴な女性より、あなたのような、ちょっと足りない娘の方がいいと思われたのかもね」
アビゲイルはそう言った後、舐めるようにローティシアを見て、口を歪めて馬鹿にしたように笑った。
「ふん、淑女教育を何一つ受けていないあなたに、侯爵家の女主人は務まらないでしょうね。せいぜい辺境で使用人に馬鹿にされながら、子どもを産み続けるのね」
悪意のこもった言葉を吐き続けるアビゲイルの話は、ローティシアの頭上を通り過ぎていく。あまりに非現実な話に実感が沸かない。
「とにかく、旦那さまと閣下がお待ちだから。今から私と一緒に応接室に行くのよ」
アビゲイルはそう言って、ローティシアに一緒に来るように告げ、執務室を出て廊下を歩き始めた。
応接室のドアをノックして、中にいるクロードの返事が聞こえるとアビゲイルは扉を開け、ローティシアに一緒に入るように促した。
「旦那さま、閣下、ローティシアを連れて来ましたわ」
さっきまでの声とは打って変わって、裏返った明るい声でアビゲイルがお辞儀をする。それに
「ローティシア、アビゲイルから話を聞いてくれただろうか。ここにいる私の友人のセオドア=グレンヴィル=フェアファクス侯爵があなたとの結婚を望んでいる」
クロードがローティシアの青ざめた顔を見ながら話しかける。
「この結婚について君がどのように思うか、返事を聞かせて欲しい」
ローティシアは、混乱した頭で自分の置かれた立場を考えた。
返事、と言われても、そもそも断ることなど許されるのだろうか? 発する言葉が何一つ思い浮かばず、黙ったままゆっくりと顔を上げた。黒い瞳が自分を凝視していた。
「あ、あの、どうして私なのでしょうか」
頭に浮かんだ疑問がそのまま声に出ていた。黒い瞳の奥の緊張がふっと柔らかくなったように感じた。
「あなたが子どもに接する姿を見て、非常に好ましいと感じたのです。辺境領へ行くことに不安もあるでしょう。返事は3日待ちます。どうか良い返事を聞かせてください」
ローティシアが次に目を覚ました時には、セオドアはすでに朝の鍛錬に出た後だった。朝食を終えて、子猫をコンラートに引き渡すために、エサ入れや水入れ、使い慣れた毛布などをまとめていると、部屋にドーバンがやって来た。「奥さま、旦那さまからの言伝でございます。今夜、軍の幹部の方々と晩餐を共にされるとのこと。奥さまに同席いただきますのでご用意いただきますようにと」この城に来て、初めての社交だ。少し緊張する。軍の幹部ならば、少なくともその一人は、昨日出会ったコンラートの父のエンリオのことだろう。「はい、承知いたしました」その返事にドーバンが妙な顔をする。彼は時々私のことを変な顔で見る。何かおかしいところがあれば言ってくれれば良いのに。昼過ぎにコンラートが子猫を引き取りに来た。「今日は、父さんが夜にこっちに来るから、このまま夜まで城にいていいよって言われてるんだ。だから、お部屋でネーベと遊んでていい?」昨日、厳しく叱られたばかりなのに、コンラートはあまり気にしていないようだ。昨日のことで落ち込んでいなくて良かったが、また、叱られないようにこちらが配慮をしてあげなくてはと思う。「ねぇ、コンラートの家は一つ目の城郭の外にあるって言ってたでしょう? ここまでは歩いてきているの?」さっきまで、寝台の周りを、紐に括り付けた鳥の羽を引っ張って、走り回って猫と遊んでいたコンラートだが、子猫が遊び疲れて寝てしまったので、ソファに座ってお菓子を食べはじめていた。「うぅん。今日は父さんが城で仕事だから、一緒に馬で来たよ」「コンラートは馬に乗れるの?」コンラートは眉を寄せて、少し怒ったような顔をする。「何回か一人で乗ったことあるんだよ。でも、父さんが8歳にならないと一人で乗って外で走っちゃいけないって。まだ、鞍の下まで足が届かないからダメだってさ。全然、大丈夫なのに!」「ふふ、コンラートはきっと馬に乗るのが上手になるわ」「ロ‥‥奥さまは、馬に乗らないの?」「乗らないんじゃなくて乗ったことが無
「ここからここまで移動するのに馬で5日はかかる。国境の城壁に沿って損壊がないか確認しながら進んでいく」そう話しながら、腰を抱いていた手が胸に触れ始める。もう片方の手でガウンの腰ひもが解かれ肩からすべるように落とされる。首筋に唇をつけながらセオドアが話を続ける。「野営のテントは、暗くてとても寒い」胸に触れる指の動きと、優しく啄む首筋の唇の感触に、ローティシアの体から力が抜け、セオドアにしなだれかかる。「寝台は硬くてとても冷たいんだ」顎を持たれ、後ろから唇を奪われる。その間も別の手はローティシアの柔らかな胸に触れ、その頂をいたずらしつづけている。「そして、柔らかく温かいあなたがいない」セオドアは、夜着の肩ひもを口で引っ張ってほどくと、胸をはだけ直接触れる。温かく大きな手のひらの感触にローティシアは思わず呻いた。その呻きを吸い取るように再び唇が寄せられ、舌が絡まり合う。「ロッティ、あなたをこうして抱きしめたかった」そう耳元で呟かれると、ローティシアの背筋に快感が走り、セオドアの手のひらに、もっととねだるように背を反らせて胸を押し付けた。口づけをしながらセオドアはローティシアを抱きかかえ、寝台に向かい、その体をそっとシーツの上に下ろす。彼のいないひと月の間、この逞しく筋肉を纏う胸に抱かれることを夢にまで見た。セオドアの背中に手を回すとためらいがちに抱き着いて、小さく呟く。「私も‥‥私もです」――テオ様に抱きしめられたかった……自分の腕にふれる彼の背中に、緊張が走るのが感じられた。もしかしたら、そんな言葉は言ってはいけなかったのかもしれない。でも、どうしようもなく心の声が零れてしまった。セオドアは、顔を上げローティシアの唇を激しく奪い、その激しさにローティシアは翻弄され呑まれていった。◇◇◇情熱的なひと時のあとの余韻の中で、自分の胸元に丸まって眠っているローティシアを見ながら、セオドアは、晩餐の前の出来事に思いを馳せていた。ようやくローティシアと二人きりになり、すぐそこに誘うような可愛い唇があった。
晩餐室に現れたローティシアを見て、セオドアは、二人きりの穏やかな晩餐でないことを悔やんだ。帰還の途中で、せっかく会議をするために城まで来たのだから、奥方に挨拶を、と彼らにうるさく言われ、仕方なく晩餐の席にローティシアを呼ぶことになった。いずれは顔合わせをしておくべきだが、それは、温かくなってここで夜会を開くときにでも、と思っていた。むさ苦しい彼らとローティシアを、同じ席に座らせて食事をさせようとは考えていなかった。隣に座り、皿をつつきながら皆の話に耳を傾けているローティシアの姿を見つめていると、周りの話が少しも入らなくなる。レースの襟が首元までついているとはいえ、深い襟ぐりの下の胸のふくらみが押し上げられ、その隙間から柔らかい胸が覗き見える。この姿は他の男が見ていいものではない。「食べているのか?さっきからちっとも皿の料理が減っていないが」ほんのり赤くそまった頬をさらに赤くして、セオドアの方を振り向いて恥ずかし気に応える。「皆さまと同じペースで食べていたら、もうお腹がはちきれそうで、入りません」はちきれそうになっている白くて滑らかな腹を想像して、体が熱くなった。退屈していないか、と聞くと、『辺境を守ることの大事さが知れて、皆さまの話は興味深い』などと可愛らしい返事をする。膝に置いた手を撫でるように動かすと、ふぅ、と甘やかなため息が漏れた。ほんのり赤く色づいた首筋が自分を誘っているように感じる。ふと目を上げると、自分たちの姿をニヤニヤと笑って見ている輩たちがいた。不愉快極まりない。冷たい目でにらみつけて、晩餐をお開きにすることにした。自分の胸元に頬をつけてもたれているローティシアの細い肩に、体が冷えないように湯を掬ってかけてやる。気づくと、火照った顔をぴたりと自分の胸につけてすぅすぅと寝息を立て始めた。しばらくそのまま湯を掬ってかけてやったり、背中を撫でてやったりしていたが、さすがに湯が冷めると風邪を引く。「ロッティ、このままここで寝たら風邪をひく。体を拭いて寝台に行こう」そう耳元に囁くと、いやいやをするように胸元に頬をつけて首を振る。子どものようなその仕草に思わず笑みが漏れた。「さ、立って」そう言って脇を持ち、湯桶の外に立たせる。湯に濡れてしっとりしたした白い肌。小さな体に形の良い胸が腰の細さを際立たせる。眠気でぼんやりとして胸を隠
以前と同じように、二人の晩餐は静けさのなかで進んでいた。目の前に、セオドアの皿の半分ほどの量の料理が、美しく盛りつけられている。このひと月で、料理長のベイスンは、ローティシアの胃袋の容量をすっかり把握してくれたらしい。「辺境巡回とは、どのようなことをなさるのですか?」先ほどのこともあって、何の会話もないまま食事が続くのがどこか心細く、ローティシアは声をかけた。自分が尋ねたところで、理解できるかはわからない。けれど、辺境で何が起きていて、セオドアが、どのようにそれを守っているのか――彼のしていることを知りたいと思った。「そうだな。まずは、国境に築かれた城壁の管理だ。これが崩れたり、あるいは意図的に壊されたりしていないか、確認をする。壊れたところから侵入してくる不届き者もいるし、管理が行き届いていなければ、隣国に侮られる原因にもなる」セオドアは、ナイフとフォークを一度置き、言葉を継いだ。「三年前の戦争で、国境沿いは随分と破壊されてしまった。ようやく、その修復が終わったところだ。だが、戦後とはいえ、警戒は怠れない。修復後も駐屯軍によって日々巡回し、異常がないかを確かめている。加えて、雪の降る前と夏の始まり、年に二度は、私自身が実際に巡回をして、各所の様子を確かめるようにしている。長く辺境に駐屯していると、兵士たちもどうしても気が緩む。緊張感を保たせるためにも、私自身が巡回することが必要なのだ」その語り口は理路整然としていて、彼がいかに真剣に領を治め、国を守っているのかが伝わってくる。 ローティシアは自然と手を止め、聞き入っていた。それに気づいたのか、セオドアが手元にちらりと視線を向け、グラスの水で喉を潤すと、わずかに咳払いをした。「‥‥こんな話は、女性には退屈だったかもしれない」自分が何の相槌も打たず、黙ったままでいたせいだろう。彼は、自分がこの話に興味を示していないと思ったに違いない。 そうではない。ローティシアは、辺境の守りに熱意を注ぐ彼の話に心を奪われていただけだった。――まただ 気の利いた言葉一つ返せない自分が、もどかしい。
バン、と大きな音を立てて扉が開かれた。「ロッティ! 父さんがネーベを家に連れて帰って良いって言ってくれたんだ!だから‥‥」コンラートがいつものように、遠慮なく部屋の扉を開けて入ってきた。そして、ソファに座るセオドアの姿を見て固まる。コンラートの後ろからメイアと体の大きな赤毛の男が慌てて走ってくる。「待ちなさいコンラート!勝手に部屋に入ってはいけない」追いかけて来た甲冑をつけたままの男性が、部屋の入り口で礼をしてコンラートの腕を引いた。「閣下、申し訳ございません。コンラートがご無礼をいたしました」セオドアは、ローティシアの手を離し、立ち上がって冷たい声でその男を見据えた。「エンリオ、主君の居室になんの前触れもせずに勝手に入るなど、子どもといえどあまりに礼を失しているだろう。どういうことだ」ローティシアは、驚いてセオドアを見つめた。彼のこんな冷たい声を聞いたことが無かったからだ。コンラートは青い顔をして立ちすくんでいる。ここで助け船を出したらセオドアの機嫌を大きく損ねるかもしれない。でも‥‥「テオ様、申し訳ありません。私が悪いのです。この子猫はコンラートが見つけて、一緒に助け出したのです。世話をするために、好きにこの部屋に出入りしてよいと私が伝えました。叱られるべきは私です」立ち上がって、セオドアとコンラートの間に立つようにして声をかけた。セオドアは、ゆっくりとローティシアの方を振り向く。「ロッティ。あなたが誰にでも優しいのは構わないが、守らねばならない秩序というものがある。コンラートが、あなたとの関係を混乱させたままこの城で生活すると、いずれ困るのは彼だ。主君を愛称で呼ばせたり、自由に居室に出入りさせたりするのは、彼のためにならない」その通りだ。ローティシアは告げられた言葉を噛みしめる。寂しさにかこつけて小さな子どもを混乱させてしまったのは自分だ。「はい、肝に銘じておきます」うつむいて手を握りしめる。その様子に慌てたように赤毛のエンリオと呼ばれた男が子どもの頭を押さえる。「閣下、大変ご無礼をいた
セオドアは、第一駐屯地で必要な処理を終え、城への帰還に目途がついたとき、正直なところ、ひとりで馬を駆って、すぐにでも城へ帰りたいという思いでいた。しかし、自分の立場として、そうした身勝手な行動をとるわけにもいかず、その眉間の皺はさらに深くなり、周囲はますますそれに怯えた。ようやく城の前広場に帰ってきた時、使用人たちと共にローティシアが笑みを浮かべて迎えてくれた。思わずその場で抱きしめたくなる衝動に駆られたが、この一か月、まともに湯にも入っていない自身の身を思うと、彼女に近寄ることが憚られた。「おかえりなさいませ」彼女がお辞儀をし、そっと近づいてくる。だが、セオドアは一歩下がり、軽く頷くだけに留めて居室へと足を向けた。「私のいない間、不便はなかったか?」後ろを早足で追ってきているローティシアに声をかけながら、少し歩くペースを落とす。「はい、皆さまに良くしていただいて、不自由なく過ごしておりました」柔らかな声が、素直にそう答える。私の不在を、寂しく感じた瞬間はなかったのだろうか。そんな思いが胸をよぎったとき、彼女の口から、おずおずとした小さな声が洩れた。「‥‥何か、お手伝いいたしましょうか?」着替えを?湯あみを?一瞬、思考があらぬ方向へと飛躍した。しかし、今の自分が湯に浸かれば、湯はたちまち濁りそうだし、それを彼女に見せるのも、触れさせるのも気のりはしない。ましてや何もしないで彼女の手を借りるなど到底耐えられそうになかった。「いや、けっこうだ。後で、あなたの部屋で話をしよう」これ以上話していると、細い腕を引いてそのまま部屋に連れ込んでしまいそうだった。そうなる前に言い捨てるようにして、自室へと足を踏み入れた。武具を外し、着替えを手伝う侍従の横で、ドーバンが不在中の城内の様子を報告していく。「奥方様には、城内で必要なものをすべてご確認いただきました」最後に、と付け加えてドーバンが発したその言葉に甲手をはずす手が止まる。「私は、彼女が快適に過ごせるように配慮







